犬の夢 ver.安室




 コナンを連れて休憩室に入ると、部屋の隅に置いたケージの中でまどろんでいた三毛猫の大尉が、パッと目を開けた。

「久しぶり、大尉。元気だったか?」
 少年に呼びかけられて、大尉は嬉しそうにしっぽを振る。コナンはケージの前でしゃがみ込むと、手を差し出して頭を撫でた。先に休憩を取っていた梓が、それを見て笑う。

「大尉はコナンくんが大好きだねぇ」
「えー? ほんとか?」

 にゃあ、と返事をするように猫が鳴く。梓とコナンが顔を見合わせて笑った。

「お昼持ってくるから、ちょっと待ってね」

 気持ちよさそうに頭や喉を撫でられている大尉を一瞥し、一度店に出てオムライスの仕上げをする。ついでに、自分も休憩をとってしまうつもりだ。二人分、大きいサイズと小さいサイズで作られたオムライスを並べながら、先ほどの寝ぼけたコナンを思い返す。
 あの子が、あんな風に無防備に抱き着いてくるなんて思いもしなかったから、驚いてしまった。まだぬるい体温が残っているような気がして首元をさすり、冷蔵庫からリンゴを取り出して、皮をむく。
 犬を飼っているか、とか言っていたが、どんな夢を見ていたのだろう。安室が犬を飼う夢だろうか。あるいは、彼自身が飼う夢か。

(犬、ね……)

 戯れに、オムライスにケチャップで犬の絵を描いてみる。妙に可愛らしくなったオムライスに苦笑して、安室は自分のオムライスには普通にケチャップをかけた。

 お盆を持って、梓と入れ替わりに休憩室に入ると、コナンはまだ大尉の頭を撫でていた。──いや、これは大尉がコナンの手に頭をすりつけているのか。以前も思ったが、動物に好かれる子だ。
 犬の夢を見たというのも、やはり飼いたいからだろうか。他人の家に居候しているのだ、ペットが飼いたい、とは言いにくいだろう。
 しかし、考えて、首をひねる。この年齢の子どもなら、犬を飼いたいという願望くらい持っていて普通だろうが、この子が夢に見るまで切望しているとは、正直あまり想像できない。この子なら、飼うことを認めてもらうために実際行動を起こす気がする。
 だとしたら、さっきのは何だったのだろう。
 ほんの数分前まで腕に抱えていた小さな背中を見つめ、無意識に首元をさする。
 異性同性の人間を含め、生き物と定期的に触れ合う機会がないと、たまに触れる、自分とは別の生き物の、自分とは異なる温度や鼓動の感触が、妙に残るような気がする。

(それとも、この子だからだろうか)

 稀有で特別な、温かい子ども。
 彼本人は猫っぽい印象があるが、この子がペットを飼うなら、犬が似合うなと思う。それも、小さな犬ではなく、大型犬がふさわしい。自分の場合は──。

(……犬、だったら)

 飼うのではなく、もし自分自身が犬だったら、楽しいかもしれないなと、ふと思った。
 一緒にいて。そばで守って。あんな風に、頭を撫でてもらって。言葉が伝わらないから、あんな風に全身で好意を伝えても、その理由を問われることもなく、当たり前のように受け入れられる。そうなったら、どんなに。

(──なんて)

 夢ですらない、ただの下らない妄想だ。

「コナンくん、お待たせ」

 ひとつ首を振り、安室は笑顔を作って少年に声をかけた。