あなたの小鳥




 冬は日没が早い。陽が落ちると、元から低い気温はますます下がって、肌を刺すようだ。
 工藤邸までの道を歩きながら、コナンはふるりと背中を震わせた。
 もう少し早く毛利家を出れば良かった。しかし、年末最終日に急に飛び込んできた事件に立ち会っていたら、この時間になってしまったのだ。
 マフラーを事務所に忘れてきたから、首元から風が吹き込んで寒い。早く家で温かいものが食べたい。
 そう思ってから、そういえば工藤邸の居候、沖矢昴に行くと連絡を入れていないことを思い出して、暖かいポケットからスマホと手を出す。

「寒っ」

 あっという間に冷えた指先でロックを解除したところで、コナンはふと、足を止めた。
 人混みの中、一瞬安室透の姿が見えたような気がしたのだ。

(安室さん……? こんな時間に何やってんだ? 昼に会った時は、今日は探偵の仕事があるとか言ってたけど)

 姿が消えたあたりに行ってみると、細い道がある。表通りから離れ、どこか裏道につながっているようだ。
 コナンは少し考えてから、足を踏み出した。
 もしかしたら、組織関連かもしれない。危険かも知れないが、少しでも情報が欲しい。
 大人一人がなんとか通れる程度の細い道を、慎重に進む。大通りから離れると、街灯も減って暗くなる。あたりの様子が見えにくくなるが、こちらには阿笠特製の眼鏡があるし、コナンのような小さな子どもは見つかりにくくなるから好都合だ。
 住宅街の裏側をしばらく歩き続けると、行き止まりにいかにも怪しげな廃ビルが一つ見えた。コナンは物陰に隠れて、追跡眼鏡でビルをうかがう。

(……安室さんの姿は見えねーけど……あの中か? 何か取引とか)

 そこまで考えた時、不意に背後から何かが覆い被さる。ギョッとして腕時計に手をかけたが、その手もひやっとした冷たい手に押さえられた。
 まずい、と内心舌打ちした時、耳元で大きなため息が聞こえる。

「──何をやってるんだ、こんな時間に」

 コナンは聞き慣れた声に力を抜いた。

「……安室さん」

 背後から抱きしめられるような体勢のまま、なんとか顔を後ろに向けると、安室が渋い顔でコナンを見下ろしていた。安室は小声で囁く。

「とんだ不良少年だな、君は」
「だって」
「先生か、蘭さんは? 二人とも撒いて来たのかな?」
「二人なら、家にいると思うけど。……それより安室さんこそ、こんなとこで何してるわけ?」

 たずねると、安室は眉間にしわを寄せる。

「それより、じゃないだろう。どういうことだ? 先生たちはこんな時間に君を一人で放り出すようなことしないはずだ」
「こっちの質問に答えてよ。何してるの?」

 重ねて問うと、安室はため息をついた。そして、諦めたように口を開く。

「昼間ポアロで会った時に言っただろ? 今日は、探偵の仕事」
「……という名目、じゃなくて?」
「正真正銘、探偵安室透の仕事だよ」

 げんなりした表情を見ると、どうやら嘘ではないらしい。
 公安警察に所属しているこの男は、黒の組織に潜入し、情報収集を得意とする幹部「バーボン」として活動している。その彼が表向きの顔として使っているのが、駆け出しの私立探偵兼喫茶ポアロのウェイター、兼毛利小五郎の一番弟子、「安室透」だ。
 組織の仕事と警察の仕事、それにポアロのバイトだけでも忙しいはずなのだが、安室は設定だけでなく、実際私立探偵としての仕事を請け負っている。誰かに調べられた時のための保険だろう。

「なんだ……」

 組織の仕事でなくて、ガッカリしたような、ホッとしたような。微妙な気持ちで力を抜いたが、ふと気を取り直して安室を見上げる。

「もしかして何か、すごく難しい事件だったり?」

 コナンのキラキラした視線に、安室はそれはそれは嫌そうな顔をした。

「あのね。普通の私立探偵は、難解な事件の解決なんて依頼されないんだよ。毛利先生や、日本警察の救世主と名高い高校生探偵とは違うんだ」

 嫌味っぽい口調に、コナンは「へぇー」と視線をそらす。

「それじゃあ、何のお仕事なの? 猫探し?」
「浮気調査」

 安室はコナンの頭の上にあごを乗せた。──地味に重い。コナンは目を瞬かせる。

「浮気? え、まさかあんなとこで不倫してるの?」

 廃ビルに目をやって思わず声をあげれば、安室は「シーッ」と慌てて注意する。

「気づかれるだろう。──さすがにおかしいなと思ったら、案の定様子が変でね」

 そこで安室は思い出したようにコナンの手首から右手を離して、左手だけで両手首を拘束し直すと、スマホを取り出してどこかに電話をかけた。

「──風見か?」

 コナンもよく知る、安室の部下の名前だ。
 低い声で話す内容を聞けば、どうやら安室の依頼人の夫は、公安が目をつけていた覚醒剤の売人と会っている様子で、安室はたまたま、浮気ではなく覚醒剤の取引現場を押さえた、ということらしい。

「二人だ。……ああ、単なるブツの受け渡しではなく話をしているようだから、大きい取引相手の可能性がある。──ああ、捜査線上にはあがってない名前だよな。……了解した。お前たちが現場に到着次第、僕は離脱する。念の為それまでここを見張っておく」

 そうまとめて通話を終えると、安室はまたコナンの両手を掴み直した。

「……乗り込まないの?」
「それでもいいんだけどね。僕が乗り込んで制圧するより、警察に逮捕させた方が、後の面倒がないだろう」
「風見刑事が来るまで待って、それで終わり?」
「お巡りさんの仕事だからね。一介の私立探偵には荷が重いよ」

 目の前でお巡りさんに指示を出しておきながら、そうしらばっくれて、安室は目を細めてコナンを見下ろした。

「君も、彼らが出てこない限り余計なことを考えないこと。風見に見つかると、保護の名目で警察に連行されるぞ」
「げ」

 それは、まずい。風見から高木経由で小五郎に連絡が行ったら、最悪だ。
 警察の応援を呼んでいるなら、彼らに任せるのが一番だろう。そう厄介な奴がいるわけでもないようだし、安室の言う通りにするのが、確かに面倒がない。
 少しつまらないが、組織がらみの案件というわけでもなく、危険が迫っているというわけでもないなら、大人しくしていよう。

「──それで? 今度は不良少年が質問に答える番だ。こんな時間に一人で何をしてる。先生たちは家って、どういうことだ」

 コナンはため息をついた。
 この男に工藤家に行くと告げるのは色々と問題があるので、少しごまかしつつ事情を話す。

「ボク、今日は阿笠博士のところに泊まるつもりで、博士んちに向かってたんだよ。こんな時間になったのは、おじさんの仕事に付き合ってたからで……うち帰るより、直接博士の家行った方が近いから、途中でおじさんと別れてさ。その時、安室さんの姿を見かけたってわけ」

 安室は顔をしかめた。

「……なんで阿笠さんの家。こんな日に」
「こんな日だから、だよ」

 コナンは肩をすくめた。

「英理おばさんが、戻って来てるんだ。別居してるっていっても、さすがに大晦日とお正月くらいはね」
「それで君が阿笠さんのところに行かなければならない理由がわからない。……妃さんに何か言われた?」
「まさか!」

 即座に否定して、しかし正直に理由を言うのも気まずくて口ごもる。

「……コナンくん?」
「あ、安室さん、見張り。ビル見てなくていいの?」
「ごまかさない。見張りならちゃんとしてるよ。君の話を聞きながらね」

 再び頭にあごを乗せられ、体重をかけられて、コナンは「うげ」とうめいて、観念してボソボソと答えた。

「……英理おばさんは、うちにいればいいって言ったよ。でもさ……安室さん、知ってるんじゃない? 英理おばさんって、料理が独特なんだよ」
「……ああ……」

 見たことがあるのか、あるいは小五郎から何か聞いていたのか。英理の料理の腕前を知っていたらしい安室は、なんとも微妙な表情で相づちを打った。コナンはため息をつく。

「申し訳ないんだけど、食事は普通にとりたいっていうかさ。それにほら……家族団欒、大事だし」
「……なるほど?」

 呆れたように見下ろされ、コナンはむすっと口を曲げた。
 英理の料理が苦手なのは、本当だ。でもコナンは、さして食にこだわりがある方ではない。それに、蘭だっているのだ、何も食べられないなんてことはないだろう。それでも、普段一緒に暮らしている小五郎や蘭と違い、新一が幼い頃に少し面識があった程度で、かつ、苦手意識があった英理がいると気を遣うし、逆に英理だって気を遣う。──だから、だ。別に毛利親子に気を遣ったわけではない。本当に、色々と面倒だっただけだ。
 安室はため息をついて、言った。

「まあ、事情はわかったよ。でもそれなら、阿笠さんが今頃心配してるんじゃないか」
「あ、それは大丈夫。まだ行くって連絡してないし」

 しようとしたところで安室を見つけたのだ、と言えば、安室はまたため息をついた。

「君はなんでそう……なら、終わったら送っていくよ。君をここで解放したらあっちに首を突っ込みそうだし、また何か事件に巻き込まれるかもしれない」
「いや、それはさすがに」
「無いって言えるのか?」

 じろりと見られて、肩をすくめる。事件遭遇率が高いことは、自覚している。その上今日は年末で、しかも人出が多い時間だ。普段よりトラブルが発生しやすいタイミングだ。
 阿笠の家に送られるのは少し困るが、もしかしたら、沖矢も阿笠の家に差し入れを持って行っているかもしれないし、そうでなくても後で工藤家に移動すれば問題ないだろう。
 了解の返事の代わりに、安室の胸に背中を預ける。

「……あ、でもこの体勢はもうちょっとなんとかならない? 安室さんも疲れるでしょ」

 背後からすっぽり包むように覆い被さられて、足は膝の間で動かないように固定されているし、手首は相変わらずまとめて拘束されたままだ。
 安室も、地面に座っているならともかく、小学生のコナンに合わせてしゃがんだ状態なのだ。キツくないのかと体重をかけてもたれかかってやったが、安室は「平気だよ」と微笑んでビクともしなかった。どんな体幹をしているのだ。

(せめて腕は離して欲しいんだけど)

 この状態だと、いざという時にパッと動けないので、落ち着かない。それに意識してしまうと、密着するような体勢が恥ずかしい。

(クソ……手、デカいなー……)

 小学生の細い腕とはいえ、手首を二つまとめて掴んでもまだ余裕があるように見える。関節のひとつひとつがしっかりした、大人の男の手だ。

「……寒くない?」

 不意にたずねられてドキッとする。

「だい、じょうぶ」

 真冬の夜、道端のしかも物陰で空気は冷えている。しかし、この体勢だ。寒くはない。
 安室が「そう」とうなずいて口を閉ざすと、あたりはシンと静まり返った。
 住宅街とはいえ、裏側に面した道だし、人通りもない。灯りがついていない家があるのは、帰省しているからだろう。そもそも休日だし、大晦日だし、この時間ならみんな家に戻っているのかもしれない。コナンも、体が縮む前、両親と暮らしていた頃は、大晦日のこの時間は家でテレビを見ながら優作の晩酌に付き合っていた気がする。
 大晦日の夜に何をやってるんだろうな、と今更思う。家族でもなく、毛利親子でもなく、阿笠でもなく、この男と二人だなんて。
 はー、と安室が息を吐いた。

「……風見の奴、遅いな」
「まだ十分くらいでしょ。安室さんこそ、寒いの?」
「いや」

 安室は首を振って、急にふっとふきだした。コナンは首を傾げる。

「何?」
「ごめん。ちょっと、昔見た絵を思い出して」
「……絵?」
「そう」

 目を瞬かせると、安室はぎゅっと一瞬、コナンの手首を掴む手に力を入れた。

「雪が積もった冬の日に、一羽の鷹が木の枝にとまっている。鷹は、その足に小さな雀を一羽、掴んでいる」

 頭の中で絵を思い描く。記憶をさらったが、そういう絵を見た記憶はなかった。しかし、思い浮かぶ単語がある。

「それって、『ぬくめどり』?」
「君は相変わらずなんでもよく知っているな」

 安室は笑った。
 ぬくめどり──温め鳥、というのは、鷹が冬の寒い夜に小鳥を捕まえて、捕まえた鳥の体温で足を温めるという伝承だ。鷹は、朝が来ると小鳥を解放して、そして、暖をとった礼に、その日は小鳥が飛んでいった方向では狩りをしないという。

「季語でしょ、冬の。絵があるんだ」
「うん。大きな鷹が、小さな雀を掴んでる日本画。最初に見た時は狩りの絵かなと思ったんだけど、横に解説があって、面白いなって思ったのをおぼえてる」

 確かにそれは、そう見えるだろう。暖を取る目的だから殺さず一晩捕まえているだけで、本来は捕食者と被食者の関係だ。捕まった小鳥にとってはきっと、恐怖の一夜だろう。

「……それで、安室さんが鷹で、ボクが雀?」
「そう。コナンくんはあったかいね」
「小学生だし……」

 子ども体温というやつだ。言われてみれば、掴まれた時は冷たかった安室の手は、温かくなっていた。
 安室は小さく笑った。

「絵を見た時は、こんな小さな鳥で暖が取れるのか疑問だったけど。十分にとれるね。鷹の気持ちがよくわかった」
「それは良うございました……」

 ため息をつくと、安室は眉を上げた。

「でも雀くんは、少し危機感が足りないんじゃないかな。──こんな状況で、しかも保護者に連絡も入れずに、一晩消えても誰も気にしないかもしれない状況で……無事に解放してもらえると思っているなら、随分気が緩んでいる」

 コナンはぱちぱちと瞬きして、安室を見上げた。

「……取ってつけたみたいな警告だね」

 確かに、安室は警察官であると同時に、組織の幹部でもある。状況によっては敵対することもあり得ることは、わかっている。
 でもいまの安室はバーボンではなく安室透で、こんな、コナンを寒さから守るような体勢で、体温を分け合っているような状況で──温め鳥の話なんて連想しておいて、危険もなにもないだろう。
 安室は図星をさされたような気まずげな顔をして、咳払いした。

「……とにかく。君はすごい子だけど、こんな風に手足を封じられたら反撃のしようがないんだから、もう少し慎重に行動すべきだ」
「はあーい」

 コナンの軽い返事に安室が顔をしかめたその時、安室の胸ポケットがわずかに震えた。
 何かの合図だろうか、と思って見上げると、安室はうなずいた。

「風見たちが来たみたいだ。──警戒心の足りない不良少年は、お巡りさんに保護してもらおうか?」
「今後は気をつけて行動します」
「……返事だけは立派だな」

 安室は苦笑して、コナンを抱えて立ち上がった。
 道に出れば、近くの物陰に、いかにも警察っぽいスーツ姿の男の姿が数名。先頭に見える眼鏡をかけた長身の男は、風見だ。
 安室は一瞬そちらに目を向け、小さく頷くと、自然な足取りでその場を離れた。
 風見がコナンを見て変な顔をしていたような気がするが──暗かったので気のせいかもしれない。とにかく後は、捕り物が上手くいくことを祈るばかりだ。



 大通りまで戻ると、先ほどまでの静寂が嘘のように、明るく賑やかになった。
 安室はコナンを下ろすと、手を取った。

「気をつけて。人が多いから」
「はぁい」

 答えて手を握る。不本意だが、小さな体は人混みの中でぶつかられたりカバンなどの物が当たったりしやすい。
 すれ違う人たちは、買い物袋を下げて、そこには餅や蕎麦など、年を越すための食材が詰まっているようだった。
 英理のお節は、蘭がなんとか軌道修正しようとしていたが、大丈夫だっただろうか。

「そういえば、安室さんはお節とか作るの?」
「一人暮らしでお節は作らないよ。一度本格的なものを作ってみたいんだけどね」
「ふーん。──そしたら安室さん、おじさんのところで年越せば良かったのに。おじさんも喜んだと思うよ」

 安室が作るお節なら、絶対に美味しい。
 安室が「弟子の僕に任せて下さい」と言えば英理だって台所を任せただろうし────いや、それとも客だからと台所から追い出しただろうか。五分五分だ。

「家族団欒は大事って言ったのは、君じゃないか。──でも、そうだな。……それも、楽しかったかもね」

 安室は想像するように視線を少し上に向けて、小さく笑った。
 阿笠邸に続く道まで来た。安室は立ち止まり、コナンの手を離す。

「ここからなら、すぐだろう」
「……家まで送ってくれるんじゃないの?」

 てっきり、阿笠邸の前までついてくると思っていたので拍子抜けする。安室はコートのポケットに手を入れ、肩をすくめた。

「鷹に倣って、雀の飛んでいく方向は詮索しないことにするよ」

 コナンは思わず顔をしかめた。
 これは、工藤邸に──沖矢のでところに行くつもりだったことがバレている。
 安室は笑って、巻いていたマフラーを外すと、コナンの首にぐるぐると巻き付けた。

「気をつけて。暖かくして寝るんだよ」

 そう言って、背を向きかけた安室のコートの裾を反射で掴む。
 驚いたように振り返った安室と目が合って、コナンは口ごもった。

「あ、えっと」

 何故掴んでしまったか。自分でもよくわからないまま、でも離す気にはなれなくて、コナンはまだ安室のぬくもりが残るマフラーを掴んだ。

「鷹、は。朝まで温めてくれた恩に、雀を逃してあげるんでしょ。──まだ、夜じゃん」

 安室が目を丸くする。コナンは慌てて言葉をついだ。

「ええとつまり、いまから連絡しても急だし博士の家にボクが食べるものないかもしれないし。だから──そう、夕飯! 一緒に、食べ……ないかなって」

 言いながら、声が小さくなる。我ながら、何を言っているのか、何故こんなことを言っているのかわからない。
 でも、いま安室を寒い夜の街に放すのは嫌だなと、安室が一人でどこかへ飛んでいくのを見送るのは嫌だなと、そう思ったのだ。
 安室はじっと、コナンを見下ろす。
 断られる、かもしれない。でも、それは嫌だ。
 コナンは安室の手を掴んだ。

「いいでしょ。ボクお腹空いちゃった」

 安室は二度、三度、瞬きして、それからふっと笑った。

「夕飯をご馳走しろって? 注文の多い雀くんだな」

 コナンはホッと息を吐いた。

「いいじゃん、一緒に張り込みしてあげたんだし」
「あれは君が勝手に押しかけてきたんだと思うけど……それに、夕飯は蕎麦食べるって決めてもう買い物も済ませてるから、夕飯食べるなら家に来てもらうことになるけど?」
「え、安室さんち?」

 どこかで外食だろうと思っていたのに棚からぼた餅で、びっくりして目を輝かせると、安室は何故か額を押さえてため息をついた。

「……慎重に行動しろって、さっき言ったばかりなのに……何もわかっていない……本当に僕が朝まで解放しなかったらどうするつもりなんだこの子は……」
「え?」

 首を傾げると、安室は苦笑して、コナンの手を握り返した。

「──何でもない。君がそれでいいなら、おもてなししよう」
「もちろん、いいに決まってるよ」

 コナンはうなずいて、気が変わらぬうちにと、安室の手を引いた。

「寒いから早く行こ」
「はいはい」

 安室は諦めたように大人しく歩き出す。
 年越しそばを安室と食べるなんて、予想外だ。でも、悪くない。いつもと違う年越しに胸が弾んでコナンは借りたマフラーの下でこっそり笑う。
 どうせ家に入れてくれるなら、そのまま泊めてくれないだろうか。新年最初の挨拶を安室にするのも、面白いかもしれない。

(雀は朝に帰るものだよって言えば、泊めてくれないかな)

 そんなことを企みながら、コナンは安室を見上げて笑った。