君の体温 その後
カギを開けて覗き込んだ家の中は、灯りが消えてシンと静まり返っていた。
降谷はため息をついて、靴を脱いで家に入る。
「……ただいま」
早い時間に帰れば返ってくる「おかえり」の言葉がないのが少し寂しいが、遅くなった己の自業自得だ。
深夜二時。新一が起きていたらいたで、こんな時間までと顔をしかめていただろう時間だ。
なるべく音を立てないように気をつけながら風呂に入って、スウェットに着替えて寝室の扉を開ける。
新一と二人で暮らし始めた時に買ったキングサイズのベッドは、寝室のほとんどのスペースを占めている。そのベッドの真ん中に、こんもりと丸い山があった。
そっとベッドに潜り込む。ふとんを上げた時に入ってきた冷気に、新一が小さく唸った。降谷は急いでふとんをかけ直す。
無意識にか、新一がすり寄ってきた。ピタリと足がからまり、その冷たい足にヒヤッとする。
(相変わらずだな……)
おそらくはふとんに入って二時間は経っているだろうに、何故こんなに足が冷たいのか。
聞けばきっと、「冷え性なんだ」と口を尖らせて言うのだろう。
新一は、本人が言う通りかなりの冷え性だ。冬場は家の中でも厚手の上着やストールが手放せないし、ルームソックスを愛用している。家の中では一年中裸足で過ごせる降谷とは対照的だ。部屋を探す時、床暖房がある部屋にしたのも彼のためだった。
降谷の足に絡んだ新一の足が、じわじわと温かさを取り戻していく。
「ん……」
ほっとしたような息を吐いて、新一足が少し離れた。
いつもこうだ。体温を取り戻すと、すぐに離れていってしまう。「ずっとくっついてると暑い」というのが彼の言い分なのだが、すり寄ってきてはまた離れて、その度一喜一憂する降谷の気持ちを考えたことがあるのだろうか。
降谷は自分より少し体温の低い、細い体を抱き寄せた。
冷え性克服のためにもと、日頃熱心に運動しているが、新一の体にはあまり筋肉がつかなかった。いや、一般的に見れば十分、きれいに筋肉がついている方だろうが、降谷のようながっしりした体格にはならなかったのが、本人的には気に食わないらしい。定期的に「いいなぁ、いいなぁ」と羨ましげに恨めしげに、ぺたぺた降谷の体を触ってくる。お返しに、降谷が新一の頬をむにむにと触ると、彼はますます不機嫌になる。子ども扱いされていると思っているらしい。
子ども扱いではないが、彼が小さな姿をしていた頃のことを思い出すのは確かだ。
あの頃の彼の、まるいもちもちした冷たい頬を触るのが好きで、降谷の手の温度にふわっと無防備に力を抜く姿が可愛くて。構い倒したら気恥ずかしい空気になってしまったのも、いまとなっては良い思い出だ。
頬はすっかり青年らしく引きしまったけれど、降谷に触れられるとほっと力を抜いて、ふにゃりと可愛く笑うところは、変わっていない。
新一が降谷の胸に額をすり寄せ、抱きつくように背中に腕を回す。無意識の仕草に笑みをこぼし、降谷は新一を抱きしめ返した。
こんなに可愛いことをしておきながら、数時間すれば、「暑い」と離れていこうとするのだろうが、そうはさせない。
ふとんの足元を少し持ち上げてわざと隙間を空け、ふとんの中の空気が温かくなりすぎないように調整する。もちろん、寒くはならない程度に。
(──これで良し)
小細工を終えた降谷の足に、また新一の足がからまる。
早速成功した作戦に小さく笑う。
これで、朝までぐっすり眠れるだろう。新一も、自分も。
安心したら、あくびがこぼれた。
朝まではあと数時間。
腕の中の愛しいぬくもりに「おやすみ」と呟いて、降谷は目を閉じた。