どうか良いお年を その後




「コナンくん?」

 声をかけたが、返事がない。
 和室を覗き込むと、少年はベッドの上で丸まって穏やかな寝息を立てていた。
 そっと近づいて、布団をかけてやる。
 疲れていたのだろう。昨日は多少寝たと言っても車の中でだし、何だかんだ、この小さな体で一人、四日も生活するのは大変だったに違いない。
 眼鏡をはずして、テーブルの上に置く。無防備な寝顔だった。
 一時休戦、なんてただの口約束なのに、こんな姿を見せられては、何も出来ない。
 昼を食べ終えたばかりの、まだ日が高い部屋の中、眠る子どもの顔は明るく照らされている。真っ黒な髪には天使の輪。
 思わず苦笑する。

 ──きれい、なんて。お日様が似合うなんて。やっぱり、君の方じゃないか。

 朝の清浄な光に照らされた子どもが、自分に向かって放った言葉を思い出す。
 つまんだ前髪はいつも通り、薄くハッキリしない色をしていた。

 ──きれいに、見えたなら。

 どんなにか、いいだろう。自分は決して、そんなきれいな存在ではないけれど。

 大晦日。正月。
 この数年、意識することもなく過ぎていた日を、この子と二人きりで過ごしているのは、不思議な気分だった。
 偶然が重なって転がり込んできた一日と少し。こんな日は、もう二度とないだろう。
 だから、こんな風にただ眠っているこの子を見ているだけなのは、勿体ない気もする。彼の言う通り、起きて向かい合えば気まずくなってしまうのかもしれないけれど。
 髪を撫でると、うっすらと、コナンが目を開けた。

「……安室さん……?」
「ごめん。起こしちゃったかい。寝てていいよ」
「寝るけど……安室さんも寝るんでしょ」

 寝ぼけた少年に腕を引かれて、そのままベッドに倒れこむ。
 ぽんぽん、と幼い子を寝かしつけるように、コナンは安室の腕を撫でた。

「……安室さん寝てないんでしょ。寝ないと駄目だよ」
「あー……うん」
「お布団かけて。寒い」
「はい」

 言われるまま、布団に潜り込む。コナンはそれを確認すると、良し、とでもいうようにうなずいた。
 何だろうこの状況は、とひそかに混乱する。
 お昼寝しよう、と言われてはいたが、本当に一緒に眠る気はなかったのだ。仕事柄、二徹三徹は苦ではない。
 これは、起きたら絶対パニックになるやつだろう、とすでにうとうと眠りかけているコナンを見つめる。

「寝て」

 安室が目を開けているからか、コナンは少し強い口調で言って、まわした手で、ぽんぽんと背中を叩く。

「──はい」
「うん」
「…………コナンくん」
「……なに」
「夕飯、何食べたい」
「んー……お蕎麦」
「昨日食べたじゃないか」
「でもお蕎麦なら、ボクゆでられるし……」
「……お手伝いしてくれるんだ?」
「する」
「……そう」
「もう……夜のことは夜、考えればいいから……いいから寝よう」

 ぱたり、と小さな手のひらが目を覆う。

「──うん」

 するりと、手が滑り落ちる。
 すうすうと寝息を立てる体を、そっと抱き込む。
 起きたら蹴り飛ばされるかもしれないが、その時はその時だ。
 布団に引き込んだのはコナンだし、こんなままごとみたいな日は、最初で最後なのだから、温もりを夢見ても、いいだろう。
 そう思いながら目を閉じて、腕に力を込めた。