どうか良いお年を その後のその後
ぼんやりと意識が浮上する。
薄く目を開けて、部屋が薄暗くなっていることに気づいて枕元の時計に目をやると、もう夕方だった。
──随分しっかり寝たな……。
正月にこんなにゆっくり過ごしたのは、人生初かもしれない。
もう起きないと、夜眠れなくなってしまうし、そろそろ、夕飯の準備もしないといけない。先に動き出した頭は、そう冷静に考える。
しかし、久しぶりの熟睡で気だるい体は覚醒を拒絶する。正直、まだ眠っていたい。
布団はあたたかい。腕の中にいる子どもも。
そこで、ふっと覚醒する。
そうだ。コナンがいたのだ。
起こさないようにと、そろりと視線を下げると、腕の中に抱き込まれた子どもは、安室の胸元に顔を埋めて、穏やかな呼吸を繰り返していた。
──よく寝てる。
見ていたら起きるのが嫌になってきて、やっぱりもう少しだけ寝ようか……と考えて、ふと、違和感を覚えた。
子どもの、やけに一定リズムの呼吸。
「……」
少し考えて、寝ぼけたふりをして、さらに体を引き寄せると、小さな体がビクリと震えた。
──あ、やっぱり。起きてるな。
安室は目を閉じて寝たふりを続けながら考える。
多分、コナンは少し前に起きて、この状況をどうしていいかわからず、困っているのだろう。
おそらく、自分が布団に引き込んだ記憶があって、そして、いまの抱き込まれている状態で自分が起きると、安室も起きてしまいそうで、それは忍びないと思っている……というところか。あるいは、この状況で顔を合わせるのが恥ずかしい。
──だから言ったんだ。
背中に回した手から感じる鼓動は、少しだけ速い。
安室はそっと笑った。なんだか少し面白い。この少年の動揺したところを見られる機会なんて、滅多にない。
小さな頭を抱えて胸に押し付けて、こちらの顔を見られないようにする。
「あ、むろ、さん……?」
起きているのかと問うような小さな声に、一定の呼吸だけを返すと、コナンはあきらめたように息を吐いた。そして、また大人しくなる。
可愛いなあ、と苦笑して、あと五分したら離してやろうと決める。
大晦日に大嘘をついて警察官の手を煩わせた不良少年への、些細な仕返しだ。
五分経ったら先に起きて、ベッドから離れて、しばらくしてコナンを起こすふりをする。そうすれば、お互いこの状況に言及せずにいつもの距離になれるだろう。
この状況がかなり貴重で、手離すのが惜しい気持ちはあるのだが、それはそれとして、自分だって、面と向かえばこの状況が気まずいのは確かなのだ。
──ああでも、あったかいな。
あと五分。……十分、では駄目だろうか。
そんなことを考えて、ふと腕の中に目を落として、安室は息を止めた。
抱え込んだ小さな頭の、髪の隙間から見える耳が、赤い。
どうやっても、見過ごせないほどに。
──ッ……。
つられて赤くなる。
絶対にこんな顔を見られるわけにはいかないと、安室はコナンの頭を抱える手に少し力を込めた。不審、だったかもしれないが、ごまかせたと思おう。
何故コナンの顔を胸に押し付けるような体勢を取ってしまったのだろうと、今更後悔するが、遅い。
自分は公安警察官でプロの潜入捜査官なので、これくらいで心音は変わっていない、はずだ。多分。
──まさかコナンくん、こっちも起きてるのに気づいてないよな……?
多分大丈夫、なはずだ。はずだが、この子は油断ならない子なので、それも確かではない。
これはどうすればいいんだ、と途方に暮れる。
いま目を覚ましたふりをしても、コナンがこんな真っ赤では、起きた安室透がそれを指摘しないのはおかしい。
コナンにしっかり寝たふりをし直してもらうか、こちらが顔をもとに戻してコナンを解放して、先に起きてもらうか。二択だ。
──とにかく。顔が赤いのをなんとかしてくれ。
誰に願っているのかわからぬまま、安室は布団の中で目を閉じた。